波頭

束の間、淡く残ることについて

 

 

 

20230709 松本市

 

 

昨日の夜は眠れなくてカーテンが波うち膨らむのを見ていた
衣擦れの音は寝返りのように聴こえて
同居していた誰かの服や化粧品を捨てている瞬間に
川面は静かな光 終わりそうで終わらない花火のかたち

 


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最後の頁は白紙にしたまま貴方がいつでも好きに書き込めるように山を這う灯の粒が遠くに群れていて其れからいつまでも目を離せずにいるのでした女鳥羽川を伝い歩いてきた自分たち自身もまた見えてきたので引き戸をあけて部屋に戻ると常夜灯ひとつ生活の色はベージュ柄は初夏向きなのでしょうか

 

 

萩町-※※-新原三差路-茨大前営業所-安原町-保和苑入口-※※-上土町-

横顔 

 

 

武並駅を出たばかりの車窓に、田んぼのあいだで楽器を吹いているジャージ姿の少女が映る。木々の隙間から木曽川の霧が立っていて、少女の残像はその霧へ潜ってしまったから、曇天色の音だけが伏流水のように流れ続ける。来た道を戻っていく想像が繰り返し訪れる。

 

 

「中学生くらいまで家は荒物屋。配達もやってたんだけど、お前も手伝え、って自転車を買ってもらってね、小学2年生とかかな。卵を配達したとき、当時は卵を入れるプラスチック容器とかはなかったからさ、新聞紙に包んで自転車の前籠に入れて運んだのよ。でも、籠のなかで卵が割れるでしょ。配達先で『あなたのところに頼むといっつも割れているのよね…』って言われたのをよーく覚えてるよ」

 


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朝の6時を待っているベランダから飛び出しそうな自分を押さえつけてこれ以上不安に振り回されないように慎重に線を引くカーテンの膨らみが陽光とじゃれ合い炭酸水の跳ねるようなみずいろ言い忘れたこと言わなかったこと言わせなかったこといつか突然居なくなったあとあのひとはひとりで彼のマグカップや歯ブラシを捨てたのだろうかどれほど静かに穏やかに代わりに覚えています私が覚えていますので貴方は忘れてもだいじょうぶ出会ってしまえばたいしたことなくもう眼中にないであろう私は虚空に逃げるようにして転がっている目覚まし時計を見ていますぼんやりと希望していることに気づいてあらあらと線を引きまたここに来るとは約束しない優しくしない風鈴と屋根炭酸水を口に含んで

 

 

20230710 松本市

 

 

▼Reference